道草日和。

「モノレールねこ」

「モノレールねこ」
加納朋子
文春文庫

神々の話にやはり?案の定?挫折して、
少々、現代の語り部に読書の救いを求める。

「日常の謎」を得意とする本格ミステリ作家の一人、加納さん。
今回は、本格からファンタジックなものまで、
いろいろな「絆」についてのお話8編。
中には、久々に文学的に「読みとく」ときめきを味わえるものもありました。
こんなときは、「読書会とかやりたいな」と
一人で読むのが淋しくなる。
(2009.06.20)

で、その中から「パズルの中の犬」を「読む」ということをしてみよう。
当然、ネタばれなので普段はやらない作業をすることになり、
読んでいない人で、これから読みたい人は
どうぞ「読まない」でください。↓




「パズルの中の犬」
真っ白な、何もないジクソーパズルを組み立てていく途中で、あるはずのない犬を見る主人公。見るはずのないものを見るのには、そして「犬」であるには何か意味があるはず、と考え、自ら謎を解き明かす。

よくできた本格ミステリであると同時に、とても文学的であると思う。きちんとした伏線を辿ると、私たちにも「見えなかったものが見えてくる」。

キーワードとなるのは「犬」。犬、と聞いて何を思い浮かべるか、ということが本格を読む際には必要な想像力として問われる。まずは十二支、それから狛犬(神の領域を守るもの)、最もポピュラーなペット。このあたりまでは私も考えたのだが、それ以上の想像力が必要だ。
 ・主人公は待つことが苦手だ。
 ・主人公は、夫の帰りを待っているとき、ジクソーパズルをする。
 ・真っ白なパズルに犬が見えた。「犬」であることには何か意味がある、と考える。
 ・主人公は、「母」ではなく「伯母」に、親近感を持っている。
これらの「謎」はすべて「犬」につながっていく。
 ・待つことが苦手→2歳くらいのとき、一人で母を待ち続けていたから。お向かいの家に飼われていた犬が、やはり主人を待っていて、その犬を見ながら母の帰りを待っていた。
 ・ジクソーパズル→待つことが苦手だから(「待つ」ことにはともに過ごした犬との思い出がある)。パズルをして、それに集中しながら「待つ」行為を隠そうとしていた。
 ・「伯母」に、親近感。→母を待ち続けたつらい思い出があるから、母とはおとなになっても打ち解けることができなかった。
これらすべて、主人公は「どうして待つことが苦手か」「どうして母と打ち解けることができないか」を考えずにきた。理由である「2歳児の放置」という事実を忘れていたから(あまりにも幼い頃の記憶であるし、その思い出を封印せねば生き延びることはできなかっただろうから、当然のことといえる)。しかし、今それを思い出す必要があり、それを思い出すために「幻覚」を見る必要があった。それが以下の謎の答えになる。
 ・真っ白なパズルに犬が見えた。「犬」であることには何か意味がある、と考える。
パズルに見えた幻覚は、お向かいの犬である。(自分では理由がわからないが、)母より伯母を頼って、犬の秘密を解き明かそうとしたとき、伯母が十二支の入った年賀状を持ってくる。そこにはお向かいの犬とともに写る幼い自分がいた。けれど、十二支は12年に一度めぐってくるものであり、二度目に「犬」がめぐる頃には、「自分の写真が正月に親戚中に配られるのはいやだ」と思う思春期になる、よって犬と写真を撮ることはもうない。二度目がなかったことで、さらに記憶は封じられ、遠ざかる。謎を謎と認識しなくなるまで。
しかし、記憶は解かれ、母に真実を問う、という気が重いがやらねばならぬ仕事をすることになる。母は自分を放置したことを否定しなかった。これまでまったく登場していないことに疑問を抱くべき存在、父が、家庭を顧みることのなかった人で、つらい気持ちを紛らわすために母はパチンコに行っていたのだ。母子は知らぬ間に同じように、「待つ」行為を潰し、覆い隠そうとしている姿が浮かび上がる。しかし、一方で母は母で、娘である主人公に、許してもらえないと思い続け、傷を負っていた。二人は同じく傷を負い、隠すことで忘れようとしてきたのだ。

これらの記憶を解放し、向き合うことはそうとうきつい仕事である。にもかかわらず、主人公はそれと向き合う必要があった(必要があったから解放され、でなければ今も封印されていた謎だといえる)。それが、最後に残った謎の意味である。
 ・「犬」であることには何か意味がある、と考える。
「犬」であることの意味、それは待つことの象徴であった。しかし主人公は、もう待つだけの幼女ではない。「安産のお守り」である犬(ここまでは思いつきませんでした)はこれからの象徴、「未来」の象徴となる。母に会いに行くのは子を授かったことを知らせるためにいずれ必要なことだったが、主人公と母はその前につらい過去を、傷ではなく本当の「思い出」とする必要があった。パズルに浮かんだ幻覚の犬は、それを助けてくれたのだ。

過去の象徴である犬、幾重にも重なった「犬」の意味が、あざやかに未来へとつながるとき、物語は終わり、新たな物語が始まる。
(2009.06.20)
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by haraheri4 | 2009-06-21 18:13 | 読書 | Comments(0)
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